あきらめられない夢に
会場中に大きな拍手が鳴り響き、○○○劇団の最終公演がついに始まった。

僕はその拍手を舞台袖で聞いた。

暗くなっている観客席を見ると、役者でもないうえに舞台袖にしかいないものの緊張してきてしまう。


「間に合った」


松葉杖をつき、息遣いを荒くして上越が舞台袖へとやってきた。

上越を見つけるとみんなが駆け寄り、舞台と観客席に響かないようにそれぞれが声を掛けた。

一人一人に笑顔で答えている姿を見つめていると、こちらの視線に彼女も気付いたようだった。


「もう大丈夫なのか」


ゆっくりと近付き、真正面に立つ。



そして、改めて彼女の全てを見つめる。



華奢にも見える線の細い体つきは、ほんの少し後ろから力強く押し倒したら骨が折れてしまいそうにみえる。

ましてや、ボートで転覆でもしようものなら・・・



それでも、彼女は水面で何人もの選手と競っている。

それは、これからも変わらないだろう。


「そっちこそ」


彼女は強い。



その強さは、僕の背中を何度も押してくれた。

レースに復帰するまで協力できること全てをやったとしても、この穴を埋めることはできないだろう。


でも


もしかしたら、僕たちはそれくらいの距離が一番いいのかもしれない。
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