あきらめられない夢に
「できますか?」


男性と団長が顔を見合わせ、男性のほうは渋い表情を見せた。


「できないことはないけど・・・」


「そこをお願いします」


僕は勢いよく頭を下げた。



時間がない。



反対の舞台袖に下がったつぐみさんが、いつ舞台裏を通ってこちらに戻ってくるか分からない。



静かな時間が重く圧し掛かる。



「・・・うん」


その時間をゆっくりとした団長の声が切り裂いた。

舞台では沢良木が演技をしているのだろうが、そこに目を移すことができない。


「慎二くんの思うようにしなさい」


それはまるで何かを演じているのではないかと思うほど、とても丁寧で、一つ一つの言葉に力があり、そして、僕の胸の中にすうっと入っていった。


「団長が言うなら、できる限りやってみるよ」


男性はそう言いながら、次の出番のために舞台へと上がっていった。


それから一分も経たないうちに、反対側の舞台袖からつぐみさんが戻ってきた。

彼女と目を合わせると、少しだけ微笑みを見せたものの、みんなの調子などを伝えるため団長のほうへと行ってしまった。



僕は二人の後ろへと下がり、少し距離を置いて団長に向かって頭を下げた。
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