あきらめられない夢に
彼女は下を向いてしゃがみ込んでいるためか、僕が舞台に上がっても気付かなかった。


「どの私が好かれていて、どの私が捨てられたのか分からない。

どの私を残して、どの私を無くせばいいのか分からない」


「全部、好きだっ」


咄嗟に出た言葉は、自分でも驚くくらいに大きな声だった。

その叫びのような声に、ようやく彼女も僕に気付いた。



僕の視線に彼女がいて、彼女の視線に僕がいる。



当たり前のことだが、それが凄く久し振りで、そして、愛おしかった。


「大人びた雰囲気も、時折見せる子供っぽいところも、機械音痴なところも、実は競艇に詳しいところも。

俺は九宝つぐみ、全てが好きだ」


格好悪くても構わない。



周りから笑われても構わない。



それがどんな結果になっても、僕は自分の気持ちをありのままに伝えたい。
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