あきらめられない夢に
その後も上越は常に先頭を走り、三周周ったところでレースは終了を遂げて上越は一着を取った。


「今のが『まくり』よ。

彼女の名前のことじゃなくて、勝負の決まり手、技の名前とも言うべきかな」


上手く説明できないのか、少しだけ自分の言葉にもどかしさを感じているようだったが、だいたいは分かった。

今のが上越の名前にもなっている『まくり』。

前の三つのレースのどれよりも力強く、見ていて拳に力が入った。


「凄いや。

競艇選手になったと言われても何もピンとこなかったけど、あんなのを見せられたら落ちこぼれの俺なんかとは大違いだ」


上越が素晴らしいレースを見せてくれたというのに。



素晴らしい『まくり』を見せてくれたというのに。



選手として頑張っている姿を見ているというのに、僕の口からは半ば愚痴に近いような言葉が出てきてしまう。

そんな自分がたまらなく嫌になりそうだった。


「まくりちゃんも選手になりたての頃は上手くいかなかったのよ」


その言葉に彼女を横目で見ると、遠くを見つめるような目で水面を見つめていた。

その姿に僕の鼓動は速く、激しくなっていく。
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