あきらめられない夢に
「今では人気もあって成績もなかなかのものだけど、デビューしたばかりの頃は五着とか六着ばかり。

それに加えて、フライングや転覆も多くてね。

それでも彼女は前を向き続けて、今みたいな選手になった。

そういえば、あの頃のまくりちゃんも泣きながら自分のことをよく落ちこぼれって言っていたなぁ」


高校時代から変わらず明るく元気な上越にそんなときがあったということを知り、そのときの姿を想像してみる。

しかし、泣いている上越など想像などできるはずもなかった。


「失礼かもしれないけど、宮ノ沢くんのことはまくりちゃんから少しだけ聞いたわ。

彼女に悪気はないから、機嫌を悪くして彼女を怒らないでね」


「そんな・・・」


上越のことだから、僕のことを心配してくれてのことだろう。

そんな上越の行動を怒るという大それたことをするほど、僕は失礼な男ではないと思っている。


「あなたは自分のことを落ちこぼれというけれど、落ちこぼれとかそういうものがあるとしたら私は落ちこぼれてもいいと思う。

でも、その状態から何もしなくなったときが本当の落ちこぼれって言うんじゃないかしら。

あなたは三重に帰ってきた。

そして、新しい場所を探している。

あなたはまだ、本当に落ちこぼれてなんかいないわ」


優しく、ゆっくりと彼女の口から出てきた言葉に、僕の視界は涙で滲みそうになった。

もし、僕が人生で救われた言葉を挙げろと言われるときがくるとしたら、今の言葉は間違いなくそのうちの一つに入るだろう。
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