あきらめられない夢に
目に溜まった涙を拭いながら水面に顔を向け、大きく深呼吸をする。

いつの間にか水面には一艇もボートは出ておらず、静けさと穏やかさの両方が水面の銀色の輝きを際立たせていた。


「俺、頑張ります。

今は落ちこぼれているけど、頑張って動いて本当の落ちこぼれにならないようにします」


きゅっと口元を結び、柵に掛けている両方の手を強く握り締めた。


「何かちょっと可笑しい。

落ちこぼれとか、本当の落ちこぼれとか。

落ちこぼれ、落ちこぼれって言い過ぎよね」


軽く握った右手を口元に当て、彼女は笑いながら僕の隣へとやってきた。

風になびく髪が僕の肩に当たり、それだけで胸が熱くなるような気がした。


「・・・頑張れ」


近づいてきた体とは裏腹に、顔は僕とは反対側に向けてそう呟いた。

それは、初めて彼女と出会った日に車の中で上越が僕に掛けてくれた言葉や仕草そのものだった。

きっと、上越もデビューして上手くいかなかったとき、彼女から同じように言われたのであろう。

僕はその言葉を二度も掛けられ、二度とも背中を押してもらえた。


「上越が九宝さんに頼んだのか何かしたんですよね?

わざわざ、ここまで連れてきてくれてありがとうございました」


隣で彼女が少し身を引いてしまうほど、僕は深々と頭を下げた。

周りの視線が幾らか気にはなったが、今の僕に彼女への感謝の気持ちを示すにはこれしかないと思う。
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