あきらめられない夢に
「あ・・・」


「そういえば、つぐみさんの劇団っ」


お互いが同時に話題を切り出したので言葉が重なってしまった。

そして、あまりにも慌てて話題を切り出そうとしたので、思わず『九宝さん』ではなく『つぐみさん』と呼んでしまったことに気付き、照れくささを通り越して恥ずかしくなってしまった。


「・・・いいよ」


「・・・」


「『つぐみ』でいいよ。

そのほうがよそよそしくないから」


言葉ではなく、首を縦に一度だけ振るという仕草で返事をした。



それからはしばらく沈黙が続き、お互いが話題を待っているような時間が過ぎていった。


「つぐみさんの劇団の由来」


いつまでも彼女を待たせてはいけないと思い、僕のほうから沈黙を破って話題を切り出すことにした。



それに対して彼女は顔を前に向けて腕を組んで、「よくぞ聞いてくれた」と今にも口に出しそうな表情を見せた。


「松坂○○○劇団(まつさかさんじゅうまるげきだん)。

松坂はそのまま地名で、○○○(三重丸)を漢字で書いたとき、『さんじゅう』と『みえ』をかけているのよ。

それともう一つは、観て頂いた方から三重丸の評価を貰えるような劇団になりたいという気持ちも込めて。

父が三十年近く前に名付けたのよ」


嬉しそうに由来を話すつぐみさんの目には、三十年前に名付けたときの光景が浮かんでいるようだった。
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