あきらめられない夢に
「私が三十五歳だから、生まれたからすぐに劇団ができたの」


あまりにもさらりと自分の年齢を言い、そして何事もなかったかのように話を続けようする彼女に、僕は慌てて待ったをかけた。


「つぐみさん、三十五歳なんですかっ」


「そうよ、老けて見える?」


初めて知った彼女の年齢は僕が考えていた年齢よりも大きかった。

そして、何よりも自分の年齢を抵抗も無く話す彼女に、目を大きく開いて驚きを表した。


「いや、逆ですよ。

てっきり僕の一つか二つだけ年上だと思っていましたよ」


「そう?ありがと、嬉しい」


嬉しそうな表情と口調、やはり三十五歳で僕よりも十歳も年上ということが信じられなかった。


「というか、自分の年齢をそんなに簡単に言っていいんですか」


「いいの、いいの。

もうそんな歳でもないし、私自身がそういうことにあまり拘りとか気にしていないから」


笑いながら彼女は太ももに両手を置く仕草をして、僕の視線が太ももに注目してしまい慌てて前に戻す。

十歳という歳の差の女性の太ももは、年上の女性に憧れる二十五歳の僕には大人の魅力という『エロス』を一瞬だけ感じてしまった。


「どうしたの?」


不謹慎な想像を、思い切り首を横に振って必死でそれを振り払う。

つぐみさんはそれを見て、笑いながらもう一度同じ質問をした。

その笑顔に不謹慎な想像はどこかへと消え、こちらも今の自分の仕草が可笑しくなって一緒に笑い、車内は二人の笑い声で包まれた。
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