あきらめられない夢に
「今度は私が聞きたかったことを聞くね。

『宮沢ニノ』の由来で気になったけど、名前を入れ替えたなかで『慎』という字が抜けているよね。

それって、良い語呂が無かったからなの」


確かに由来を聞いたら、宮ノ沢慎二から『慎』という字が無くなっていることを思うだろう。

あまり話したくないことだったが、由来まで言ってしまったのですべての理由を言わなくてはいけないだろう。


「まあ、語呂が思い付かなかったというのも一理あります。

でも、大本の理由は単純に僕が『慎』という字が好きじゃないんです。

だって、同じ『慎』ならば真実の『真』でいいじゃないですか。

何故、わざわざ小さいという文字を付け足したのか分からないし、自分の真実が小さいって言われているみたいで嫌なんですよ」


話している途中から恥ずかしくなってしまい、気が付いたら少しだけ体の向きがつぐみさんと反対側へと向けていた。

この話をしたのは人生で二回目、彼女が二人目だった。

そのときは大笑いされたが今回もそれは同じで、やはり彼女は大笑いをしていた。


「何それ。自分の真実が小さいって、いくらなんでも考えすぎだよ」


お腹を抱えて笑い声を上げ、のけ反るように大きく笑っている彼女を見て恥ずかしさが余計に大きくなってくる。

もし、僕の目の前に穴があるならば入りたい気分だ。


「そこまで笑わなくてもいいじゃないですか」


「ごめん、ごめん。

まさか私の憧れの作家が、こんなことで悩んでいたと思うと可笑しくて」


憧れの作家という言葉は嬉しいはずなのにその笑い声がそれを上書きしてしまい、僕は思い切り不機嫌にふくれっ面をしてみせた。



すると、今度はその表情を見て彼女は笑いだし、こうなると僕にはどうすることもできなかった。

そして、開き直ってまた一緒に笑った。
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