あきらめられない夢に
「ちょっと、人の話聞いているのっ」


五日前を回想していた僕の耳を劈くような勢いで発せられたその声に、驚きとともに現実世界へと戻された。


「ごめん、ごめん。

何の話だったっけ?」


「もう、やっぱり聞いてなかった」


拗ねたような声とため息を彼女は同時に出した。



つぐみさんは確かに上越に頼まれて連れてきたと言っていた。

しかし、上越はつぐみさんが見せに行くと言っている。

二人の話が合わず、どちらかが僕に嘘をついているということになるが、一体どちらが何のために嘘をついているのだろうか見当もつかなかった。


「あのさ、上越」


「何?」



本当につぐみさんがレースを見せに行くから連絡先を教えてくれと言ったのか



その言葉が口から出ることはなかった。
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