あきらめられない夢に
いや、違う。



これを聞いてしまったら何かが崩れてしまいそうな気がして、それが怖くて出すことができなかったのだ。


「次のレースってどこなの?」


結局、僕はそのこととは全く関係のないことを口から出してしまった。

真相を知りたいのに、それを知る勇気がない。

我ながら臆病だと思い、情けなくなってしまう。


「次はね・・・」


電話越しに手帳を捲る音が聞こえてくる。



自分のことが情けなく思えてしまう僕の言葉だったが、それでもそれに対して彼女は嬉しそうに答えようとしてくれている。

自分の仕事のことを聞かれたのが本当に嬉しかったのか、鼻歌が聞こえてきそうなくらい彼女は上機嫌になっていた。


「次は二十二日からの三国(みくに)で六日間開催だね。

あっ、三国ってどこか分かる?」


「福井だろ、そんなの分かるよ。

そもそも、六日間開催というところのほうが分からないよ」


「えっ、六日間開催はそのままだよ。

レースが六日間あるってことだよ」


僕はレースが一日で終わるものだと思っていたので、この前の津でのレースもあの日から五日後に上越が帰ってきたことに驚いた。

簡単に五日間開催だったからと言われても、競艇に関して何一つの知識もないこちらは全く言っている意味が分からなかった。



その後、彼女から競艇の開催日程などの解説が行われた。



上機嫌だと彼女は話し出すと止まらなくなるということを、僕はこの日思い出すこととなった。

それから『上越まくりの競艇講座』と題された電話は、延々と二時間近く続いた。
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