あきらめられない夢に
「宮ノ沢」


夏の茹だるような暑さのなかでも、しっかりと着こなした白いシャツを崩さずに先輩は走り寄ってきた。

そのシャツとは対照的で、ひどく険しい表情だ。


「聞いたぞ。

お前、会社を辞めるって本当なのか?」


いきなりだった。



会社からの通告はあまりにもいきなりで、一日経った今でも自分のなかでも整理がついておらず、デスクの片付けと自前の荷物の回収のために会社に来た。

その姿が傍から見ればあまりにも惨めに見えるのか、大抵の人は事を察して気を遣ってか誰も話しかけてこなかった。

それでも、この人だけは僕を見つけた瞬間に一目散にこちらに来た。


「ちょっとだけ、時間いいか」


他の社員がいるこの場では話せないと思ったのか、先輩は僕を連れて会社の外へと向かった。

もう仕事のしようがない僕にはいくらでも時間あるが、これから営業先を回る先輩のほうこそ時間は大丈夫なのだろうか。

でも、今日初めて人の温かみというものに触れた気がして、崩れかけていたものが辛うじて崩れずに済んだような気がした。
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