あきらめられない夢に
着信音がようやく鳴り止み、部屋に再び静かな時間が戻った。


あのときの先輩の表情は、思い出したくもないくらいに辛そうだった。

自分の身内のことのように心配し、いつも僕を導いてくれた先輩。

その先輩を見た最後が、今まで見てきたなかで一番辛い表情。

それが頭の中で甦ったとき、僕はまだ電話に出ることができなかった。



静かだった時間に、今度はメールの受信音が鳴り響いた。

普段、あまり携帯電話に触らない僕にとっては騒がしい夜になったものだ。



メールの受信ボックスを開くと、思わず笑みが交じったため息をもらす。

携帯小説のことを考えたかと思えば、先輩のことを考え、そして今度は別の人のことを考える。

ここに戻ったときは何もすることがなく時間が長く感じていたが、僕も随分と忙しくなったものだ。



そんなことを思いながら受信メールに返信をして、窓の外を眺める。

秋も深まり半袖では寒くなり、月がその存在をより一層鮮明に見せつけていた。



携帯電話の着信履歴を見て、ふっと小さく笑う。



「先輩、また今度話しましょう」



そう呟き、今度こそ静かな時間を手に入れるため、携帯電話の電源を切った。
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