あきらめられない夢に
どこか感慨深くなっている僕の横で、彼女はナビで目的地を設定しようとしていた。

やはりその手はどこかたどたどしく、僕のなかで機械音痴が決定となった。


「日付通りにつぐみさんのファンレターを読んでいたら良かったな。

そうすれば、違っていただろうな」


機械音痴なりに一生懸命頑張っている彼女を余所に、僕はセブンスターをジーンズのポケットから取り出そうとする。

しかし、彼女の前で吸うのはさすがに失礼ではないかと思い、その手を止めてハンドルへと場所を移した。


「いいじゃない」


ナビの画面を見つめながら彼女は続ける。


「違っていただろうってことは、日付通りに読んでいたら私たちは出会えなかったかもしれないということよね。

それだったら、読まなかったこともそこまで悪くはないわよね」


私たちは出会えなかったかもしれない


その言葉に特別な意味を考えてしまい、恥ずかしくなり下を向いてしまう。

恐らく漫画やアニメだと、今の僕は顔を真っ赤にしているのではないか。


「そういう考えもできるってこと」


下を向いている僕の左肩を軽く小突き、その仕草で特別な意味はないと分かり少しだけ落ち着きを取り戻す。


「ねっ」


今日二回目の『ねっ』は、今日一番の笑顔だ。



ものは考えようなのだと今の会話で勝手に僕は解釈し、またしても彼女に励まされた気で僕はいた。


あのときがあったからこそ、今がある


そう。

今があるのは、あのときがあったからこそなのだ。

彼女は僕の背負っていたものを一つ下ろしてくれ、僕に大事なことを一つ教えてくれた。
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