あきらめられない夢に
「あの、それよりナビまだですか?」


「うっ・・・」


「僕が代わりにします?」


「・・・」


あれほど美しく見えた彼女だが、機械に苦戦し、手を差し伸べる僕に対して少し意地っ張りになっている姿は幼い少女のようだ。


「松坂森林公園」


呟いた場所を素早く入力し目的地の設定を完了した。

彼女が何度も繰り返したこの作業を、僕は一分も掛からずに終了してしまった。

そのことが面白くなかったのか、彼女は無愛想な表情になり僕とは反対の窓の外を見つめだした。

その姿が僕にとっては面白く、目的地に向かう車中でずっとにやにやしていた。



しばらく車を走らせると目的地である公園にもう少しというところで、彼女は身を乗り出して前を見つめた。


「ここ」


彼女の指示で停めた場所は、公園の入口から少し離れているところにある駐車場だった。

更に細かい指示のもとに駐車場の一番下側に停めると、松阪市内であろう夜景が車のフロントガラス越しに広がっていた。


「ここに来ると、凄く落ち着くの」


彼女のリラックスした姿を見て、僕は靴を脱いで運転席の前側に両足を乗せて膝を曲げた。

シートを後ろに下げて両手を頭の後ろで組むと、彼女は遠慮しながらも真似をするように同じような体勢になった。



明る過ぎる夜景は綺麗というよりは派手という言葉が当てはまるが、この夜景は程よい明るさで落ち着くという言葉がまさに当てはまるようだった。
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