あきらめられない夢に
電話で用意してくるようにと言われたものは、作業用品の専門店に全て置いてあり、買い物は意外に容易に終わった。

結局、それから僕は何をするわけでもなく、ただ何も考えず適当に様々な場所に車を走らせて帰路に着いた。

明後日からはまた仕事で忙しくなる日々が続くと思うと、気が引き締まる思いとともに久しぶりの仕事という言葉に胸が高鳴っていた。

一ヶ月前にはこの言葉が重く圧し掛かっていたが、時間が解決することとは上手く言ったもので、今では昼に買った新品の作業靴を眺めながら、僕は必要以上に顔をにやにやさせていた。

きっと誰かが今部屋に入ってきて僕を見たら、気味が悪いと思うだろう。

そう思っていても、自然と頬は緩んでしまう。


「あっ、忘れてた」


浮かれていて、仕事が決まったことを報告することをすっかり忘れていたことに気付く。



父親はこの時間はまだ仕事から帰ってきておらず、母親は僕が帰ってくる前には既にもういなかった。

半年前に近所の付き合いで始めたエスキーテニスという今まで名前も聞いたこともないようなスポーツの練習に週に二回行っているのだが、それもあってか僕は両親と一緒にいる時間というのはあまり無かった。



携帯電話を取り出して両親のアドレスをメールの宛先に設定したが、こういうことは面と向かって言うべきだと思い直す。

そして、そのまま宛先をつぐみさんに変更した。
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