あきらめられない夢に
全身から力が抜けていくように、僕はその場に座り込んでしまった。



今、先輩は僕のことをどう思っているのだろう。

もう辞めた人間なのだから、できればどうでもいいと思ってくれていたほうがこちらとしては楽だ。



いや・・・



前の会社の誰にそう思われても構わない。

だけど、先輩にだけはやはりそう思われたくはなかった。



しかし、今はまだ先輩に連絡をする時期ではないと思う。

自分がここで変われたと思えたとき、先輩にはそのときに連絡をすると決めて携帯電話を閉じた。



そして、昼に仕事で使うものと一緒に買ったルーズリーフとバインダー、筆記用具を取り出した。

仕事も決まり、僕はまた携帯小説を執筆しようと思ったのだ。

筆記用具類は家に探せばあるだろうが、新しくすることで気持ちも違ってくるような気がした。



この一年間は執筆から遠ざかっていたものの、頭のなかでは常に幾つものストーリーや人物の名前が刻みこまれていた。

それらが頭から腕、指先、ペンと伝わり、ルーズリーフへと移動してメモとなった。

それまでは僕の頭のなかだけだった登場人物たちが、ようやく形あるものへと変わった瞬間だった。



殴り書きのようなメモで詰めて書いていったが、僕の頭のなかを全て形にするのにはルーズリーフ五枚も要した。

それらを冷静に見つめ直し、ストーリーを繋げて物語の世界を一つ、二つと作っていった。

そして、それらに出てくる人物に名前を当てはめていき、一時間以上経ちようやく全ての作業が終わった。
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