あきらめられない夢に
「何考えているの?」


見透かしたかのように彼女は言葉を掛けてきて、僕は平静を装うのに必死で話題が何も出て来なくなった。


「いや、あの・・・明日の夜は空いていますよ」


そんな状態だからこんなにも早く本題を出してしまい、そういう自分にため息を大きくついてしまう。

そのため息を聞いてか、彼女はいつものように小さく笑った。


「明日はいつもの場所と時間でいいですか?」


「ちょうどそっちに行ってみたいお店もあったし、明日は私がそっちに行くわ。

良ければ夕食はお祝いも兼ねて食事を奢らせてもらうけど、宮ノ沢くんの都合は大丈夫かしら?」


つぐみさんと食事。



今まで何度か二人で会ったことはあるが、二人で食事というと何かそれまでと違うニュアンスのように思えて妙に恥ずかしくなってしまう。

僕は、女の人に対して免疫力がないなどと思ったことは一度もない。


「も、もちろんオーケーです」


それでも今は免疫力がどこかにいってしまったように、彼女の言葉に対して声が裏返ってしまった。

それを聞いて、彼女は案の定もう一度笑った。


「どうしたの急に」


何でもないことなのに「大丈夫です」とだけ言うと、まるで思春期の中学生のように僕は黙り込んでしまった。



その後のことはあまり思い出したくもないくらい出てくる言葉がぎこちなく、落ち合う場所と時間を決めたことだけはっきりと記憶して電話を切った。
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