あきらめられない夢に
「運送会社。まあ、トラックの運転手です」


恐らく僕が入った会社がどういう仕事なのかを聞きたいのだと思い、グラスに手をつけながら答えた。

彼女は「ふうん」とだけ言って僕側の料理に箸を伸ばして小皿に盛っていると、店員がまた一つ料理を運んできた。


「トラックの運転手といっても、長距離じゃなくて県内を周るんです。

長距離だと大型の免許が必要だし、さすがに長距離はちょっと」


「それでもどうして運送会社に?

前の仕事は確か営業だったわよね。

百八十度とは言えないかもしれないけど、限りなくそれに近いくらい違う仕事だと思うけど」


彼女の言葉に少々困り、左手で頭を掻く。

彼女と会うと約束した昨日の時点でこの質問がくることは予想していたが、実際にされるとやっぱり困ってしまうものだった。

正直、話さなくてもいいのならば、誰にも話したくない。

それくらい僕は運送会社という仕事を選んだ動機は、他の人からすれば不純と思われるかもしれないものだった。


「どうしても言わなきゃ駄目ですか」


上目遣いで彼女の様子を伺う。

彼女は別に構わないと口では言っているものの切ない表情を見せた。



彼女にそんな表情をされては言わなければいけないと思った。

大阪で劇団を辞めた話を僕にしてくれたことを思い出し、彼女だって人に話したくないことを話してくれたというのに、僕だけ話さないというのは不公平だ。

頭の中を整理して、口から出す言葉を懸命に選ぶ。

どちらにせよ明日以降には、彼女だけでなく明日からお世話になるであろう社員たちに話すことになるのだから、彼女に話すのも自然な流れといえば自然なのかもしれない。
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