あきらめられない夢に
「よろしくお願いします」


彼女に向かって、もう一度僕は頭を思い切り下げた。

彼女は少しだけ後ずさりして、小さく舌打ちをした。


「まだ誰もお前の教育係を引き受けたとは言ってねえよ」


「いや、もう決まりでいいだろ」


「異議なし」


「沢良木は厳しいぞぉ」


明らかに空気が変わり、プレハブ小屋は笑いに包まれた。


「分かった、分かったよ。やりゃいいんだろ。

おい、いい加減頭上げろ」


どうやら彼女は引き受けてくれたようで、僕は頭を上げようとする。

しかし、先ほどのことがあるので、ゆっくりと後ろに下がりながら上げた。

今度は何も当たらずに済んだので、ほっと一息をついた。


「何だよ、俺がまたぶつけるとでも思っていたのかよ」


「あっ、いえ」


そのやりとりを見て、また笑いに包まれる。



朝礼中は初日ということもあって、何を言っているのか全く分からずにいた。

まだ仕事を何一つやっていないからそれは当り前のことで、この会社のことをどうこう言える立場でもない。

それでも、僕は何となくこの会社ならやっていける気がした。


「よし、行くぞ。

付いてこい、落ちこぼれ」


朝礼が終わり、彼女は勢いよくドアを開けて一目散にトラックへと向かった。

支給された真新しい制服に袖を通したばかりで、慌てて着替えを済ませて後を追った。

六人で唯一の女だが威勢がよく、プレハブ小屋の様子では主任の次に年長なのだろうか。


「よろしくお願いします」


一礼してから助手席に乗ると、すぐさまトラックは動き出し敷地内を出た。
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