あきらめられない夢に
最初の信号が赤になり車を停止させると、運転席の視線がこちらに向いているのが分かった。

それでも僕からは何を話していいのか分からず、ただ前だけを向いて気付かないふりをしていた。


「さっきは悪かったな」


そう呟き、彼女は頭を掻いた。

意外な言葉に思わず「えっ」とだけ、口から零れてしまう。

そして、彼女のほうを見ると、恥ずかしそうに反対側の窓に顔を向けた。


「昨日まで課長が『東京の企業で働いていた子がうちにくる』って、あんまり浮かれた様子で話していたから、うちら良い気がしてなかったんだ。

東京で働いていたのがそんなに偉いのかよ、って。

だから、最初にお前が入ってきたとき、みんなメンチ切っていたろ。

こういう仕事だしここの連中はみんなそういう性格だけど、みんな悪い奴じゃないから」


信号が変わり、彼女はハンドルを握り直してトラックは再び走り出した。


(あのときの冷たいような空気は、俺に対しての敵対心のようなものだったのか)


プレハブ小屋での最初の空気を思い出し、その真相を知った安堵感で息を吐いた。


「さっきの自己紹介、その・・・良かったぜ。

多分、みんなも課長が言っていたような奴じゃないって分かったと思うし」


その言葉を口にする姿がどこか頼りがいがあり、東雲先輩と同じ空気に触れているようだった。
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