あきらめられない夢に
「ただ、俺はまだ認めないからな。

すぐに辞めやがったら、張り倒すからな。

だから・・・頑張れよ」


最後のほうは小さく呟くような声だったが、その言葉は確かに僕の耳に届いた。

その言葉のおかげで僕の気持ちは軽くなり、走るトラックの景色が急に明るくなった気がした。


「沢良木杏子(さわらぎきょうこ)だ。

よろしくな」


「はい。

よろしくお願いします、沢良木さん」


「『さん』付けは止めろよ。

お前、二十五だろ?

俺のほうが二つ年下だから、敬語なんていらねえよ」


「えっ」


そのとき、僕は初めて彼女が年下だということを知った。

女性にとっては失礼なことかもしれないが、彼女のことを完全に年上だと思っていたし、プレハブ小屋での立ちまわりを見てあの六人の中でも年配のほうだと思っていた。



プレハブ小屋ではみんなの顔や、さっきまで彼女の顔をじっくりと見る余裕など無かった。

しかし、確かによく見てみると顔つきは若い。


「何、じろじろ見てんだよ。

お前、さては俺のこと年上だと思っていたな」


今まさに考えていたことをそのまま口にされ、何か適当に誤魔化せるような話題を探す。

その間にも彼女はため息と舌打ちを大きく漏らし、それが余計に僕を焦らせた。


「いや、そのポニーテールが似合っているなっと思って」


「適当に誤魔化すなよ。

男に間違われるのは別に構わないけど、年上に間違えるとはてめえいい度胸してんじゃねえか」


こうして僕の三重での初の仕事は、やたらと派手なポニーテールで、男勝りな沢良木杏子の付き添いで一日を終えた。
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