あきらめられない夢に
鳥居をくぐり抜けたところで振り返り、神社に向かって深々と頭を下げる。


(頑張ります)


これも小さい頃に母親に言われたことで、初詣に行った際は毎回行っていることだ。

それなのに特別なことのように思えるのは、きっと今までとは違う道を走り出しているからなのだろう。


「あれ?宮ノ沢じゃないか」


頭を上げると、その懐かしい声に胸が高鳴っていくのが自分でもはっきりと分かった。

ざわつく景色を右に左にと視線を変えていき、その声の主を懸命に探す。


「ここだよ、ここ」


「園木っ」


右でも左でもなく後ろに立っていたのは、高校時代の親友である園木(そのき)はじめだった。

短髪だった髪の長さは高校時代と少しも変わっていなかったが、長さとは裏腹に髪の色が鮮やかに茶色になっていることに驚いた。


「あんなに昔人間のお前が髪染めたのか」


右肩を掴み、二人で大笑いする。

こうして二人で笑い合うことはおろか、会うこと自体が高校の卒業式以来だった。


「何だ、帰省しているなら連絡ぐらいよこせよ」


「お前が頑なに高校時代は携帯電話を持たなかったから、連絡先が分からなかったんだよ。

家に電話したら『現在使われていません』って言われるし、それでどうやって連絡しろって言うんだよ」


「あれ、そうだっけ」


自然と二人の声が大きくなっていく。



園木は僕にとって親友であり、そして恩人でもある人物だった。



上越に告白し、振られてからしばらくは僕の高校生活に色など無く、ただモノクロで無音のような日々を送っていた。

それでも園木は僕との距離を近すぎず、遠すぎずの位置で絶妙に保ち、徐々に色を取り戻してくれた。
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