あきらめられない夢に
「でも、本当にここに来て良かったよ。

沢良木や主任、みんなが俺を変えてくれる気がするんだ」


その瞬間、明らかに空気が変わった。

ゆっくりとこちらに近づいてくる彼女の表情は明らかに先ほどまでとは違い、何か怒りのような感情が十分すぎるほどこちらに伝わってきた。


「あ、あの、何か変なこと言ったかな」


彼女の雰囲気に圧倒されて、壁際まで後ずさりしてしまった。

それでも彼女は近づいてくることをやめず、左の掌を思い切り僕の顔の横の壁に押し当てた。

その音が静かな倉庫内に響き渡り、二人の間に緊張感が漂った。


「おめえ、周りが自分を変えてくれるとか考えてんじゃねえよ。

誰かが変えた自分なんてつまらねえし、何をやっても言い訳ができちまうんだよ。

それに、お前はそんな自分を好きになれるのかよ。

結局、納得のいく自分に変えられるのは自分だけなんだよ」


壁から掌を離し、「ちっ」と舌打ちをして彼女は倉庫を後にした。

あまりにも威圧感が強かったため、僕は身動き一つ取れずに茫然と立ち尽くしていた。

それは彼女が去っても、解き放つことができない魔法のように僕は身動き一つ取れなかった。
< 94 / 266 >

この作品をシェア

pagetop