あきらめられない夢に
その姿に頭を下げて、慌てて倉庫を出て沢良木を目で探すがいない。

走ってプレハブ小屋に向かおうとすると、トラックを磨いている姿を見つけ走って向かう。


「沢良木・・・ごめん」


彼女の横に立ち、肩で息をしながら頭を下げた。

慌てて走ったため予想以上に肩が上下するが、それを必死で堪えながら更に頭を下げる。


「何でお前が謝るんだよ。

どう見ても、俺のほうが悪いだろ」


頭を上げると、怒りは消えたように見える。

しかし、それと変わり寂しいような、悲しいともとれる目をしていて、主任が言っていた「身をもって知ったこと」という言葉を思い出した。


「俺、馬鹿だった。甘かった。

何も分かっていなかった。何も考えていなかった」


「もう、止めろよ」


彼女がどういう人生を歩んできたかは分からない。

けれど、その目はきっと平坦な人生を歩んできたわけではないと、僕に訴えかけているのだろう。


「俺の父親はさ、それはもう駄目な父親だったよ。

酒ばかり飲んで、酔っ払っては俺や母親に暴力ばかり振っていた。

中学を卒業し、高校に入学したまでは俺もまだマシだったんだけど、だんだんそんな家庭に嫌気が差してきて・・・

それで適当に誤魔化せるものを探して、地元の不良グループに入ったんだよ。

それまでの自分とまるで変わっていって、いや、変えられちまって。

そんなことが四年も続いたんだ」


トラックの前輪のタイヤに寄りかかり空を見上げる彼女に僕は見とれてしまい、何も言わずに隣にそっと座った。

彼女は構わないといった感じで目を閉じ、ゆっくりと続きを話し始めた。
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