さよならをください
高校三年生の僕に戻る前、ほんの少し前まで話していた女神さまが今は教壇に立っている。

そこで先程の女神さまの言葉が頭の中に甦る。


折角、この姿で来たのだけど


つまり、女神さまはどういう理由かは知らないが、わざわざこの人の姿になって僕の目の前に出てきたということになる。


キミジマ ユミナ


うちの高校の古文の教師で、男勝りの性格ということもあり、どちらかというと生徒からは敬遠されがちだ。

顔は美人だと思うのだが・・・


「全く、授業が終わるまでずっと立ってなさい」


教科書で頭を軽く叩かれ、何事もなかったかのように授業は再開された。


(ああ、懐かしいな)


僕が死んだときの時間だったら、これだけで体罰だの何だのと問題になり、きっと大騒ぎになってしまうのだろう。

だけど、この時間ではこういうのは当たり前だった。

教師だって本気で生徒を傷つけるつもりでやっているわけでもない、生徒だって本気で教師が傷つけるつもりでやっているわけではないと分かっていた。

冗談という言葉だと聞こえが悪く、教師と生徒のコミュニケーションというとまた違ったニュアンスになってきてしまうが、ある種そういった類のようなものだった。



いつからだろう、学校からそういうものが薄れていったのは。



いつからだろう、自分だけを守るために人の行動や言葉の意味を考えなくなったのは。
< 11 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop