さよならをください
(こんなことしている場合じゃないのに)


今の僕には今日という一日しかない。

そして、女神さまは本当に大事な記憶を消してしまっているようで、あの歌をどこでどうやって聞いたかが全く思い出せない。

考えれば考えるほど余計に分からなくなり、また一つ大きなため息が出てしまう。


「何、そんなに大きなため息ついてるのよ」


今となっては目の前にいるヒサカの能天気ともいえたこの性格が羨ましく思ったが、そう思っても放課後までに調べて提出しなければいけないことに変わりはなかった。



別に女神さまから「過去を変えてはいけない」などの決まりなどは言われていないのだから、別に調べずに提出しなければいいだろうと魔が差す。

しかし、これもあの歌に繋がっているのかと思ってしまうと、やはり提出せざるを得なくなってしまうのだろう。


「ねえ、今日の放課後って空いてる?」


詩の書かれた紙を見つめる視界へ強引に入ってきたヒサカに、少々の驚きと、少々の戸惑いと、半分の恥ずかしさで慌てて視線を逸らした。


「お前、よくこれを見て空いているって聞いてこれるな」


そう言えば、僕は大学卒業してからは全くと言ってほど、こうして女性と向き合って話すことなどなかった。

そのためかヒサカのこの若いと思える行動は、久しぶりすぎて懐かしく戸惑う。
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