さよならをください
「えっ」


こちらが真剣に言ったにも関わらず、何か虚を衝かれたかのように締まりのない表情でこちらを見た。

歌を聴きたいということがそんなに変な思い残しで、他にもっと大きなことでもあっただろうかと少しだけ不安になってしまった。


「はい。

高校三年のとき、生まれて初めて涙を流した歌。

でも、あれ以来聞いたことがなくて、どうしても最後にもう一度だけ聴きたいんです」


不安になって考えてみたところで、真っ先に思いついたこのこと以外は何も頭の中から出てこなかった。

あの歌をもう一度だけ、最後に聴きたい。


「そうくるとは意外だったわ。

折角、この姿で来たのだけど・・・」


女神さまとも言うべき女性が、どこか困ったように眉間にしわを寄せた。


「まあ、でも仕方がないか」


しかし、すぐに先程までの表情に戻り、僕の右肩に手を置いた。
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