人生の楽しい終わらせ方


サエキを馬鹿にするような書き込みも多かったが、なんと言われても、彼女は本気だった。
自分の満足いく死に方を、本気で探していた。
そんな姿に興味を引かれたカナタが書き込みをしたのが、去年の二月のことだ。

それからしばらくは掲示板上で会話していたが、掲示板を荒らす書き込みが増えて収集がつかなくなってしまったので、数人でパスワード付きのチャットルームに移った。
だが、時間が合わなかったりしてそれも長くは続かず、メールアドレスの交換をして、メールやSNSで直接のやり取りをするようになった。
それが、その年の末頃のことだ。

それほどまめなレスポンスをしていたわけではないが、それが、半年ほど前、唐突に途切れた。
カナタからの返信が、二ヶ月ほど途絶えたのだ。
そして夏のはじめ頃、久しぶりにサエキに送ったメールには、こう書いていた。


『ごめん、ちょっと忙しかった。サエキさんって館町に住んでるって、前に言ってなかったっけ』


確か、地元で開かれている夏祭りの話をしていたんだったか。
聞き慣れない言葉があったので聞いてみると、館町独自のものらしい、という答えが返ってきたことがあったのだ。
サエキから肯定の返事が来ると、カナタはさらにレスポンスを送った。


『俺、館町に引っ越すことになった。八月の終わりくらい。』


インターネットで知り合った人間同士が、偶然同じ町に住んでいる、あるいは同じ町に引っ越すことになる、という確率は、どれほどのものなのだろうか。
決して高くないことだけは確かだろう。
だとすれば、サエキからの提案は、必然だったと言える。


『じゃあ、会おうよ。私の話聞いてくれない?死に場所も相談したいし。』


カナタは十分後、こう返した。


『いいよ』

< 10 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop