人生の楽しい終わらせ方


 15

なぜかどこか無機質なほど冷たかったあの川原とは違って、館町市は、中途半端なぬるさに覆われていた。
もうじき十月も後半に突入しようかというのに、ずいぶん足並みの遅い秋だ。
例年なら、夏が終わって、雨が降ったと思ったら、あっという間に暖かさが恋しくなるのが、この町の秋なのだそうだ。
それを教えてくれた少女は、暗い廃墟の中で、覆いを付けたランプのそばで、小さく笑った。


「カナタは秋が似合わないねえ」
「そうかな。我ながら、夏も春も似合わないと思うけど」
「冬はどうなの」
「あまり外に出ない」
「あぁ……」


そこで納得したような声を上げるのもどうかと思うが、カナタは黙っていた。
きっと自分に似合う季節なんてないのだろう。
比較的ズレが少ないだろうと思っていた秋が否定されてしまったのだから、もうなにも残っていない。
世界には、多くて四つしか季節がないのだ。


「サエキさんは、冬が似合うね」
「そ? 我ながら意外」


カナタを真似したような口調で言ったサエキを見て、カナタは言った。


「いや……、冬っていうより、寒い季節が」
「へ、なんで」
「そうやって、寒そうにしてるのが、かわいそうで」
「うん?」
「良いと思う」


表情をぴくりとも変えないまま言うと、サエキの眉間にしわが寄った。
なにか文句を言おうと口を開いて、閉じて、もう一度開く。
そして、これだけ言った。


「ヘンタイ」


そこでよくやくカナタは、にこりと口許を弛ませる。
サエキは唇を尖らせると、ソファーに放り投げてあった荷物のところへ行った。
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