人生の楽しい終わらせ方


こうして二人は、もう一度出会った。
一度目は情報の海の深部で、二度目は真っ青な空の下で出会ったサエキは、掲示板やメールやチャットでの印象通りの、マイペースで奔放で、わがままの上手い少女だった。

レジから離れたサエキが、カナタに近寄ってくる。


「古いほうは捨てるって言ったら、処分しておいてくれるって。助かるー」


そう、とだけ短く返す。

チャットやメールで会話した限りでは、毎月のように、今月服買いすぎただとか、また鞄買っちゃっただとか、そんなことばかり言っていた。
学生時代の友人も地元を出てしまって、遊び相手もいなくて暇だからと、アルバイトばかりしているらしい。
趣味もないからバイト代の使い道もなく、結果服や靴や鞄を買い漁ってしまうのだそうだ。

普通に暮らして普通に生きていくつもりの少女ならば、それほど珍しい話でもないかもしれない。
だがサエキは、自殺志願者だ。
すぐにでも死にたいという姿勢と、生活に必要のないもので散財する姿というのは、相容れないもののように思える。


「この間も、靴買いすぎたヤバイって言ってなかった? しかもこの時期にブーツ」
「あ、そうなんだよね。なんかセールやってて、つい」
「履く気あるの?」


この質問は、買い込んだ服を全て着て、靴を全て履いて、鞄を全て使うまで、生きている気があるのか、という意味だ。
それを正確に読み取ったサエキは、首を傾げてにへらと笑った。


「うーん、一回履けたらいいかなあ、と思ってたけど、無理っぽいし……全部イトコの美結ちゃんにあげる、って遺書に書こうかな」
「そんなの貰って嬉しいのかな……」
「じゃあ、気持ち悪かったら全部売っていいよ、って書く。結構なお金になると思う」
「その金、サエキさんが使えば?」
「なに、死装束買って、薔薇たくさん買い込んで、みたいな? いいねー」


けらけらと笑って、そんなことを言う。
将来のことなんて少しも考えていないあたりは、ある意味ふさわしい、と言えるのだろうか。
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