人生の楽しい終わらせ方

なんでこっちがこんなに大変な思いをしなきゃいけないんだ、と、サエキは溜め息を吐いた。
瀬川のことがなければ、カナタと喧嘩することもなかったのだろうか。

あの夜のカナタは、少しおかしかった。
サエキもきっとおかしかった。
そして、なにかが決定的に変化したのだと、サエキは思っていた。
少なくともサエキにとってはそうだ。

カナタに相談すれば解決してくれるかも、なんて考えていたわけではない。
自分でも言ったように、単純に他に相談できる相手がいなかっただけだ。
だが同時に、彼になら個人的なことを話していいかもしれない、という意識もあった。
一緒に行った場所も、話したことも、した行為も、他人の距離感ではなくなっていた。
だが、そう思っていたのはサエキだけで、カナタにとっては、サエキは相変わらず他人のままだったのだ。

なにが気に障ったのかわからないが、あんなふうに卑屈になって自嘲するのを、サエキは聞いていたくなかった。
サエキの見ているカナタを、カナタにも見てほしいと思った。


「関係ないんだってさ」


一番変化したのはきっと、サエキの自覚だ。
そんなの俺には関係ない、と言ったカナタの声を、何度でも思い出す。
カナタにとって、サエキは他人なのだ。
それは時間を共有したり、手を繋いだり、本名を教えあったり、キスをしたり、弱味を見せたり、キャンプ場まで死に場所の下見に行ったり、傷を舐め合って雰囲気に流されそうになったくらいでは揺るがないことで、はじめから変わらず、ずっとそうだったのだ。

その事実を突き付けられたこともショックだったが、それよりもサエキに衝撃を与えたのは、それを自分がすっかり勘違いしていたということだった。

なにを間違えて、寄り添うようなことをしてしまったんだか。
なにを間違えて、まるで恋人にするような相談をしてしまったんだか。

それが悲しくて、悲しく思っていることすらも恥ずかしくて、恐ろしくなった。
もしかしたら自分は、とんでもなく面倒な存在だったんじゃないか。
そう思うと死にたくて消えたくて堪らなくなったが、カナタが今までに挙げた幾つかの方法を、一人で実行することはできなかった。

サエキさんの死ぬところ、俺に見せて。
カナタがサエキに求めた唯一のことが、それなのだ。

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