人生の楽しい終わらせ方
19
線路への飛び込みはだめ、拳銃もだめ、入水も嫌、首吊りも却下。
そのくせナイフは使えない、見るだけでも震えが止まらなくなって、動けない。
「わがままだね」
「ん?」
サエキは振り返りながら、鼻で聞き返した。
声が届かなかったのだろう。
いつも廃ホテルの大きな窓から見下ろしている路上に、カナタとサエキはいた。
なんとなく人目が気になって、ホテルに入り込むタイミングを逃してしまったのだ。
コンビニの袋を隣に置いて、堤防に腰かけて、足を揺らしながら、カナタはぽつりと呟いた。
サエキは地面に落ちていた白っぽいコンクリートのかけらで、足元に図形をいくつも描いている。
子供みたいだし、気が強いし、わがままだ。
そのくせ泣いた顔は極上で、ギャップにすっかりやられてしまったのが、カナタだった。
どうしてそんなに協力してくれるの、と聞かれて、なんとなく、と素っ気なく返したことがあったが、そんなの、サエキの苦しむ顔が見たいからに決まっている。