人生の楽しい終わらせ方

後ろをついてドアを通ったサエキが、振り返ってもう一度外を見るのを確認してから、カナタは視界のよくないロビーを歩いて行った。
顔半分だけ振り返って、話しかける。


「薬物は?」
「うーん、薬物ね、演出はしやすそう。死ぬ時間も自分で調節できそうだし」
「どんな演出がいいの」
「やっぱり綺麗なベッドかな。煌々と灯りつけて、いっぱいの花とお菓子に囲まれて」
「サエキさん、そんな少女趣味だったっけ」
「む、私だってかわいいものと甘いものは好きだよ」


そのわりには、ひらひらのスカートやパステルカラーを身に付けているのは見たことがないし、一緒に食事をしても選ぶのは揚げ物とケチャップ味と烏龍茶だ。
似合わないと思っているのだろうか。
髪も青いし、本当は幼い目元もわざとキツそうなつり目にしている。
人にどう見られているかをよくわかっていないのか、わかっているからこそ、他人に思われているような人間にはなりたくなくて、死ぬ瞬間まで自分でプロデュースしたがるのだろうか。


「睡眠薬かなあ。一瓶飲めば失敗はしないよね」
「錠剤一瓶って結構大変だよ? 飲み切る前に戻しちゃうんじゃない」
「じゃあ私眠れる量だけ飲んで寝るから、カナタが残り飲ませてよ」


振り返ると目が合ったサエキに、それ殺人罪で捕まる、と突っ込む気も失せてしまった。
人間、眠っていれば抵抗しないというものでもないのだ。
意識がなくたって吐くし、むしろ自分で飲むよりよほど苦労するだろう。
いたずらっぽく自分の唇をつついてみせたのは、口移しでもしろということだろうか。
勘弁してよとだけ返すと、きひひ、と歯を見せて笑った。

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