人生の楽しい終わらせ方
20
最初にこのホテルを見つけた時も、掃除の息抜きに中を散策していて、さらに上に上がろうとしたことがあった。
階段が続いていれば、登ってみるのは当然のことと言える。
だが屋上へ続く扉には鍵がかかっていて、あと少しというところでなかなか回らなくて、疲れていたサエキが早々に諦めてしまったのだ。
鍵が錆びついていたから、あまり無理矢理に回しては折れるかもしれない、という心配もあった。
階段はほとんど真っ暗だった。
扉についた窓から、かろうじて淡い月明かりが差している。
だがそれも汚れた磨りガラスには微力すぎて、ノブを触る手元がようやく見えるか見えないか、というくらいだ。
目が慣れればなんとかなるだろうが、今は足元さえ危うい。
カナタは階段を上ってくるサエキを気遣うような仕草で、さりげなくポケットに手を入れた。
錆びに覆われた鍵じゃ不安でも、刃渡りの短い厚みのあるナイフなら、遠慮なく力づくで回せるかと考えたのだ。
ナイフの存在をサエキに勘づかれないように取り出して、扉の前に屈み込んだ。
「その辺になんか使えそうなものない?」
「なんかってー?」
「薄くて細い金属の板とか」
「今なに使ってるの?」
「とりあえずむりやり鍵突っ込んでみてる」
話しながら、ナイフの先を鍵穴に差し込む。
前にも誰かが抉じ開けようとしたのだろう、明るいところで見た時は、鍵穴の周囲に古い傷がたくさんついていた。