人生の楽しい終わらせ方

「そんなの都合よく落ちてるわけないじゃんね」
「じゃあ……鈍器」
「えっ」
「ちょっとうるさくなっちゃうけど、ドアノブ壊せば開くでしょ」
「なんで今日はそんなに屋上に出たがるの」
「なんとなく……」


本当は、今日がたまたま、星のない暗い夜だったからだ。
このペントハウスが暗くて、自分の手元を見るのが精一杯で、ナイフに反射する薄明かりすらない夜がよかった。

鍵穴の奥で、切っ先がなにかに触った感触があった。
ここまでくれば、あとは力業だ。
律儀にドアノブを破壊できそうなものを探すサエキの気配を、ちら、と窺った。
立ち上がって、小さなナイフの柄を両手で握る。


「どうー?」
「たぶんもうちょっとで回る」
「壊さないでね、鍵」
「大丈夫」


ある方向に体重をかけると、中でざり、と音がして、確実に少しずつ動いているのがわかった。
おそらくここがピーク、というところで、慎重に力を込める。
前回試した時は、ここで諦めてしまったのだ。
やはり、古びた鍵に遠慮しすぎていただけだったらしい。


「カナタ? 開いた?」


すぐ背後で声がした瞬間に、ナイフは180度回転した。
むりやり引き抜いて、素早く刃を畳む。
刃がどうなっているか、あとできちんと見たほうがいいだろうか。
錆にまみれた状態のほうが、殺傷能力は高いように思えるが。

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