人生の楽しい終わらせ方
カナタの目の前で、サエキの肌が、あらわになっていた。
やめろよ、と言おうとした声は、喉から先には出ていない。
カナタの視線は、彼女の背中に釘付けになっていた。
言葉が出ない。
月明かりだけが頼りの暗闇で、サエキの肌は浮き上がるように白かった。
細すぎるほど細い腰。
華奢な肩へと、なだらかな曲線を描いている。
その一箇所、ちょうど下着の肩紐のかかる右の肩甲骨のあたりから、カナタは目を逸らせずにいた。
ずたずたに刻まれた傷痕。
切れ味の鈍い、例えば錆びたナイフや、折れた針で突き刺して、引っ掻いて、掻き裂いたような、汚ならしい傷だった。
新しいものではない。
けれど今にも血が溢れてきそうな、いまだに化膿して腫れ上がってしまいそうな、痛々しさだ。
顔が引きつる。
眉間が歪む。
綺麗な背中にあまりにも似つかわしくない痕跡を、カナタはしばし見つめた。
「……それ……、サエキ、さん」
「……ひどいでしょ。」
穏やかな声を、サエキは発した。
なんだか客観的な言い方だ。
彼女が感じたものではなく、ただその傷の醜さのことを自嘲しているのだ。