人生の楽しい終わらせ方

「高校の時ね、好きな先輩がいたの。優しい人だと思ってた。告白したらOKもらえて、二人きりになりたいって言われて。入ったこともなかった旧校舎の、物置みたいな使ってない教室に連れてかれて、それでいきなり、押し」


言葉に詰まったように、サエキは一度口を閉じた。
それからまたすぐに開く。
なにを躊躇ったのか、サエキの背中からでは読み取れない。


「押し倒されて……、びっくりして嫌がったら、見たことない怖い顔で、俺のこと好きって言ったじゃん、って」


そこまで言って、サエキは項垂れるように下を向いた。
骨張ったうなじがあらわになる。


「全然手入れもしてない教室なのにね、床の一ヶ所だけ変に広いの。周りのもの適当に押しやったみたいになってて、散らかってるゴミとか見てやっと、あぁここヤり部屋なんだって気付いて。最初からそのつもりで連れ込んだんだって」


肩越しに、背中の傷に手を伸ばした。
指先で少し撫でられる程度しか届いていない。
「この、傷ね」と囁いて、横顔を見せる。


「埃だらけの床に、折れた定規かなんか、落ちてて。」


背筋に、ぴりぴりとした緊張が走った。
舌の付け根が勝手に震える。
サエキの静かな声が、やけにぞくりと気分を悪くさせた。
うそだろ、と、心の中で言う。


「うつぶせにされた私の、背中に」


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