人生の楽しい終わらせ方

最低限まで描写を削った言い方だった。
間違いなく、そんなシンプルな表現で済まされる出来事ではなかっただろう。
サエキは、その時の自分の感情は、一切口にしていない。

きっとそういう同意の上ではない行為が、密かに日常的に行われていた部屋で。
床に頬を押し付けられて、ぞんざいにあらわにされた背中に、尖ったプラスチックが、力の加減もなく突き立てられて。

折れて鋭利にはなっていても、柔らかい肌を破りはしても、あくまでただの破片だ。
切るというより、掻き裂くという方が近いだろう。
与えられる痛みと恐怖と苦痛は、尋常ではなかったはずだ。


横を向いたサエキの目元は、前髪に隠れて見えなかった。
口の端が上がる。
引き攣ったように、ひくりと震えていた。


「かわいそうでしょ、私。……全部言ったよ、どうするの」


なにも言葉が出てこない。
見ているだけでこっちまで痛くなってきそうだ。
けれど、目をそらせない。
ちがう、見たかったのはこんな傷じゃなくて。

サエキが、は、と息を吐いた。
笑ったのだろうか。
ゆっくりと、カナタの方を向く。
ざらついた音を立てるベッドに手をついて、そっと身を寄せるように、距離を詰めてきた。

月明かりが、サエキの目をきらめかせていた。
思い詰めたような、真剣な顔。
泣きそう、と思う。


「ね、優しくして」


サエキはカナタの肩に額を寄せて、囁くように言った。


「……で、いいの? カナタ」


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