人生の楽しい終わらせ方
「ねぇ」
少し掠れた、細い声。
疲れてる、当然か。
そう考えた。
ゆるゆると顔を動かして、彼女の方へ向ける。
顔は見ないが、聞いてる、というポーズだ。
「わたし、カナタに、謝らなきゃいけない」
なにを、と思うより先に、謝るのは俺のほうなのに、と考えていた。
理由はよくわからない。
誰が悪かったのだろう。
誰も悪くなかったような気もする。
「カナタ」
こっち見て、と言っている、とわかった。
いつからサエキの言いたいことが、言わなくてもわかるようになったのだろう。
首を後ろに向けて、サエキに振り返った。
真剣な目。
朝日が反射してきらきらしている。
夜明けの海みたいだった。
目尻が赤い。
痛そうだし熱そうだ。
サエキが泣いたあとや眠いとき、いつも瞼に触れられたがっていたのを思い出す。
カナタは体温が低いから、指先が冷たくて気持ちいい、と言って。
「私、わかってたよ」