人生の楽しい終わらせ方

関係ないことを考えていたから、反応が一拍遅れてしまった。
「え?」と言って、それから頭が回り出す。

サエキは、肩にかけたパーカーの前を掻き合わせた。
細い指が握っているのは、彼女の服ではない。
あのあと、下着姿で呆然とするサエキの前で、カナタははじめてパーカーを脱いで半袖姿になった。
単純に、彼女の薄手のパーカーを着させ直すよりも、その方が暖かい、と思ったからだ。

それにもう体型も手首の傷も、隠す必要はなくなっていた。
隠したかったのだ、はじめは。
性別のわからないような服を着て、自分のことを俺と言って、低い声で口数少なく話すようにした。

ぼんやりと合ったままのサエキの目が、歪んでいく。


「なんとなくだけどね、わかってたんだよ……こんな服で、隠せないよ」
「……え……、あぁ……」


驚いているはずなのに、ずいぶん間抜けな反応だと、我ながら思っていた。
嘘だろ、と考えながらも、頭の片隅では、そりゃそうだよなあ、と言っている。
消え入りそうな声で吐き出しながら、視線も落ちていった。

包帯の巻かれた手首が目に入る。
腕も、首も、肩も腰も細くて、男のものでは到底ない。

わかってた、と言われてそれほどショックでもないのは、隠し通せるわけがないと、きっと自分でも思っていたからなのだろう。

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