人生の楽しい終わらせ方
「……いつから」
「確信は、ずっとなかった。けど……会ってひと月くらい経った頃から、薄々」
それが、二人の間の物理的な距離が縮まりはじめた頃だと気付いて、カナタは赤面しそうな顔を背けた。
「はじめはね、指が、綺麗で」
サエキが言う。
呟くようにぼそぼそと聞こえるのは、彼女も俯いているからだろうか。
「男の人の体なんて、ほとんど触ったことないけど……その、肌、とか、匂いとか」
「……サエキさん」
「わざと低い声で話してるのとか」
「サエキさ、もういい」
「気付いてて試したんだよ……、ごめんなさい」
カナタはサエキから見えないように、顔を歪めた。
唇を噛む。
これまで違和感を確信に変えずにいた彼女が、ここへきて急に思い切った行動に出たのは、自分のせいだと思った。
きっかけを作ったのだ。
きっと、屋上で突き付けた、あのナイフが。
「私の背中見て、どう反応するかなって。引くか、同情するか、それがなにって鼻で笑うか……」
「どうせいなくなっちゃうなら、私のこと好きにしていいよって言えば、一晩くらいはそばにいてくれるかなって」
「……そう、できるのかなって。」
ぞっとした。
カナタの告白を見越しての、あの捨て身の誘惑だったというのか。
カナタの本心を引き出すため、動揺を誘うため、ただそれだけのために、あんな傷跡まで晒したのか。