人生の楽しい終わらせ方
◇ ◇ ◇
星が消える。
大きな窓枠で切り取られた朝焼けが、写真みたいなのに、眩しくて直視できなくて、勿体無い。
いつもより少し透き通って見える、ような気がする、冷たい海。
二人で手を繋いだまま、古いベッドに腰掛けて、そんなものをずっと眺めていた。
時々ぽとりと落とすように、声を出す。
それに答えて、また少し黙る。
「寒い。」
「服着なよ」
「着てるよ。あ、ブランケットとショール入った鞄、屋上に置きっぱなし」
「自分の服着てよ」
「もうちょっと貸しててよ。夜の匂いがするー」
ぶかぶかの袖から手を出して、襟元を合わせる千空に、夜は呆れた声を出した。
たぶん、本当に呆れていたわけではない。
「そんな鼻ぐずぐずで、わかんの、匂いなんか」
あんな泣き方する人はじめてみた、と千空をからかうが、そういう夜だって、鼻にかかった声は掠れてがさがさだ。
「夜も泣いてたくせに」と言葉を返されて、むっと口を噤む。
無言のまま隣に体を傾けると、抵抗しながらも笑い混じりの悲鳴が上がった。
寒い、だとか言いながらも、どうにも立ち上がる気にはなれなくて、そのまま二人でぼうっと窓のほうを見ている。
太陽の光が、波立った水面にどこまでもきらきらと散らばっていた。
太陽の似合わない二人は、ぼろぼろのこの廃屋の一室で、汚れて剥がれた壁を背に、それを見ている。
なんだか逃げ場がなかった。
「溶けちゃいそう。眩しくて」
千空が、似たようなことを口に出して言った。
ふとした時に同じことを考えているなんて、なんだか、少しだけぐっとくる。
口を開いた。
「ねえ、ここをはじめて見つけた時のこと、覚えてる?」
顔をこちらに向けたのが、視界の端に映る。
夜は正面を向いたままで続けた。