人生の楽しい終わらせ方
発言のネガティブな印象とは裏腹に、彼女の表情は、少し嬉しそうに幸せそうに、穏やかに微笑んでいた。
今まで、あまり見たことのない種類の顔だ。
ちがうよ、と、もう一度繰り返す。
「あのね、溶けちゃいたい、夜と。」
夜は一瞬黙りこんで、4秒経ってから、口を開いた。
「千空さ、俺が襲えないと思って、ナメてない?」
「きゃあおっかなーい」
棒読みで高い声を上げてちらりと視線を寄越した千空に、くそ、なんだこいつ、と思って、顔を正面へと戻す。
小さく溜め息を吐いた。
間違いなく、千空にも気付かれているだろう。
握り合った手に、少し力を込めた。
「海……、千空の髪みたいな色してる」
「そっか、私、こんな色してるんだ」
「キスしていい?」
「それ、最初にした時に聞いてほしかったな?」
千空は眉尻を下げて、首を傾げる。
返事も待たずに顔を寄せる。
赤くなった瞼が、二度瞬きしてから閉じられた。
なんだ、痛くなくたって、泣かせなくたって、生きてるって感じはするみたいだ。
例えば冷たい指先で触った首筋が暖かいとか、全く同じタイミングで目を開けて、可笑しくなるとか。
生きたい、と言った千空の声が、頭の中でリフレインしている。
海だけじゃないなにかが、透き通っていった。
夜が、明けていく。
(終)