人生の楽しい終わらせ方


名前のわからないホテルは三階建てで、一階のロビーの奥には、二部屋があった。

ルームキーの札の番号が掠れて消えてしまっていて見えないので、片っ端から試してみるしかない。
102とプレートの掛かった部屋はなんとか開いたが、もう一部屋は、キーシリンダーの中でざりざりと音を立てるだけで、ぴくりともしなかった。
中が錆びついてしまっているのだろう。

102号室には、シングルベッドが一つと、一人掛けのソファ、ローテーブルがひとつ置いてあるだけで、あとはなにもなかった。
窓さえろくにない。
寝るためだけの部屋、という印象だ。

もっとも、それは綺麗に清潔に管理されていた二十年前の話で、今はただの暗い廃屋でしかない。
狭いシャワールームに、きっとタオルだったものと、歯ブラシが落ちていた。
妙に生活感がありすぎて、中まで入ることは躊躇われた。

二階には、ドアが四つあった。
うち一つのドアは、やはり鍵が回らなくなっている。
中はどれも一階の部屋と似たようなもので、違うのは、少し広いことと、それぞれの部屋にきちんと窓があって、それなりに光が入る、ということだけだ。

持ってきた鍵は全部で九個。
あと三つ残っている。

三階への階段を上がる途中で、サエキの歩調がわずかに乱れた。
バランスを崩して横にふらついたのかと思ったら、足元のなにかを避けただけらしい。

見ると、白っぽい鳥の羽が落ちていた。
こんなところに、どうやって鳥が入り込んだのだろうか。
表のドアの横にあった窓は割れていたが、ダンボールを当てて塞いであったし、なにより鳥が入れるような大きさではない。
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