人生の楽しい終わらせ方
6
次の日、カナタが廃ホテルへ行くと、呼び出した張本人は、埃にまみれながら三階のあの部屋の掃除をしていた。
開けられるだけの窓を開けて、そこらじゅうの埃とカビを払って。
勝手に綺麗にしてしまおう、というのは、本気だったようだ。
窓の拭き掃除をしているから、わざわざ雑巾まで持ち込んだのかと思ったが、サエキが持っていたのは、大量の掃除用ウエットシートだった。
水が出ないから雑巾を持ってきても洗えないということに気付いて、買いに行ってきたらしい。
他にもハタキやら布団たたきやらホウキやら粘着テープやらを持ち込んでいる。
それらを見て、カナタは呆れたように言った。
「どこまでやるつもりなの」
「この部屋だけだよ?」
「そうじゃなく……シャワールームとかは?」
「そこはいいや……掃除してもどうせ使えないし」
「あぁ、そう……」
「カナタぁ、布団たたき」
テーブルに乗って窓を拭く手を止めないままでサエキが言うので、カナタは「ん?」と聞き返した。
そこにある布団たたきを取ってくれ、という意味かと思ったが、彼女の手は塞がっている。
布団たたきを手に取ったままでサエキの後頭部を見ていると、くるりとこちらに振り向いた。
「埃落とし、もう一回。」
「……え、俺がやるの」
「手伝ってくれないの?」
なんの邪気もないような顔して、サエキは小首を傾げた。
実際には邪気だらけなくせに、こういう時だけずるい仕草をする。
カナタはきゅうと眉を寄せて、溜め息を吐いてから、「はいはい」と言った。