人生の楽しい終わらせ方
ソファやベッドを何度も叩いて埃を出して、下に落ちるのを待ってホウキで砂と瓦礫ごと集めて、隣の部屋に投げ入れる。
カナタがそんな作業をしている間に、サエキはテーブルに乗って窓を拭いて、テーブルから降りて位置をずらしてまた乗って、ということを繰り返していた。
下の防波堤沿いの道を歩いていて、廃れきったビルの三階を見上げる、なんて人はそういないだろうが、一応外を人が通るたびに窓から離れてみたりしている。
そのため、進行具合は決して速いとは言えない。
日が高く登って、室内で体を動かしていると汗ばむようになってきた頃、ようやく大きな窓全面を拭き終わって、サエキはテーブルに腰掛けた。
腕を背中のほうに突いて、勢いよく息を吐き出す。
「あぁー窓終わった……カナタぁ、ちょっと休憩しよう?」
昨日サエキが座り込んだ壁際に、二人で並んで腰を下ろした。
最初に見た時よりはいくらか綺麗になった部屋の中を眺めて、あれはこうしてそれはこうで、なんて話をして。
サエキが買っておいたらしいペットボトルのお茶は、もうすっかりぬるくなってしまっていた。
透明度の増した窓を満足そうに見て、サエキが言う。
「海が見える」
「うん」
「昨日は灰色だったけど、今日はちゃんと青いよ」
「うん」
青いとは言うが、館町の海は青くなんかないと、カナタは思っていた。
北国特有の、温度の低い、深い藍色。
もし空が本当に海の色を映して青いのだとしたら、この町の空はこんなに暗く深い色になってしまうのだろうか。
それもいいかな、と少し思う。
サエキはこの町から出たことがないと言っていた。
きっと、この色以外に海の色を知らないのだろう。
カナタは立ち上がって、またホウキを手に取った。