人生の楽しい終わらせ方


「眠るように死ぬのが、一番、人間らしい気がしない?」
「……そんな死に方がいいの?」
「うん……失血死がいいかな」
「まぁ、死に顔は穏やかかもね」
「本当は、凍らせてほしいんだけどね」
「凍死? 雪山とか?」
「んーん」


首を左右に一度ずつ、大きく振って、サエキは片腕を上げた。
人差し指を伸ばして、窓の向こうの暗い海を指す。


「凍らせて、水葬してほしい」
「……海、好きだね」
「うん、海好き」


のまれたくなる。
サエキは、じっと前を向いたままで、囁いた。
海を眺めてぼんやりと囁く、それだけの動きを繰り返す、ただの人形のようだった。

唐突に気付く。
さっき、海を見ながら死にたいのかと尋ねた、その話の続きを、彼女はしているのだ。


「もっと北の、カナタみたいな海に、どぼんって落としてもらって。それで、クリオネが泳いでるのを見ながら、沈んでくの」


それが、私の理想の死に方。
凍らせた時点で死ぬはずだから、沈みながらクリオネを見上げることは叶わない、なんて野暮なことは、さすがに指摘しなかった。

なにかの比喩なのだろうか。
ぼんやりと正面を見据えたサエキの目は、まったくぶれることがない。
だが、カナタはもう一つの疑問のほうは、素直に口に出した。

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