人生の楽しい終わらせ方
8
八月が終わって三週間が経っても、今年はまだ少し暑い。
それでもあの部屋の中は、外の温度にも風にも影響を受けないかのように、暗くて、ひんやりしていた。
空気に生気がないみたいだ。
窓を開けると、夕方の生ぬるい熱が入り込んでくる。
「港町ってもっと涼しいのかと思ってたよ」
「暑いならもっと涼しい格好すればいいじゃん」
サエキはそう言って、カナタのパーカーの袖を指で摘まんだ。
そんな当たり前のことはわかっているので、「いやー、まぁ……」と声だけ出して濁す。
初めて会った時はショートパンツにサンダルだったサエキは、少しだけ厚着になった。
それに比べてカナタは、ずっと変わらずジーンズにスニーカーに長袖のパーカー、という出で立ちだ。
カナタはチェック柄のパーカーの裾を引っ張って、背中を丸めた。
「そういうサエキさんだって、カーディガン脱げばいいじゃん、アイス食べるくらいなら」
「えぇー? 私のはほら、日焼け対策だし」
「室内で?」
「知らないの、古い窓ガラスはUVカットしないんだよ」
「そうなの?」
そのわりには脚は出してるけど、と言うのは、やめにした。
理由があるにしろないにしろ、カナタにはどうでもいいことだ。
「雪が降る頃になったら、さすがにここも寒いかな」
「電気ストーブでも持ち込む気?」
「さすがにそこまでしないよ。毛布は持ってくるけど」
「すっかり居座る気じゃん」
「雪積もったらやだなぁ。足跡でここに出入りしてることバレちゃうよ」
「風強いから、平気じゃないの」
「甘いよカナタ。ここ一応北海道だからね」