人生の楽しい終わらせ方
そうか甘いのか。
ぼんやりと考えながら、カナタは口を開いた。
寒くなる前に衣替えしなきゃね、とか、いい加減本棚を整理しなきゃね、とか、そう言うのと、まったく同じノリだった。
「じゃあ、雪が降る前に死ななきゃね」
「そーだねぇ……でもさあ、雪が積もってるっていうシチュエーションは惜しいなぁ」
「演出として?」
「そう……やっぱり、赤が映えるのは白でしょ?」
「そっか」
辺り一面を白く染める雪と、寒さに鼻を赤くして、それ以上に真っ赤な血を撒き散らすサエキ、というのを、一瞬想像してみた。
純白に、サエキの足跡だけが残っている。
その上に飛び散る鮮血。
白かった雪がじわじわと赤く染められていくのを、自分はただ眺めているのだ。
芸術作品みたいに死んでいく彼女に少しも干渉しないように、十分な距離を取って。
心臓に突き立ったナイフから、逆手に握っていた手が離れていく。
赤くなった頬が、だんだん色をなくしていって。
雪を溶かしていた血液が、温度を奪われていって。
すっかり血の気をなくした額に、鼻に、睫毛に、雪が落ちていく。
いまにも人形のようにぱっちりと目を開きそうで、けれどもう二度と開くことはない。
真っ白い景色の中で、なによりも鮮やかに死んでいく彼女は、きっと最高に綺麗だろう。